選別の門(駅の自動改札、空港のゲート、PCのセキュリティソフトから見えてくるもの)
2017/08/22
朝の改札を、夥しい人が通り抜ける。ICカードをタッチする電子音が、尽きることなくこだまする。私もその音のひとつとなり、ピッ、と鳴らして通過する。
この光景を眺めていると、決まっていつか受けたIT研修を思い出す。アンチウィルス、いわゆるセキュリティソフトの仕組みが、まさに改札に例えられたのである。
インターネットに接続すると、膨大なデータがPCに流れ込む。有益なものばかりでなく、その中にはウィルスやスパイウェア等の害を及ぼすプログラムも潜んでいる。それを選別するのがセキュリティソフト、駅でいう改札というわけである。乗降駅でちゃんとタッチされているか、残高は足りているかと、もろもろの検査をするのと同じなのである。
そのような仕組みである以上、セキュリティソフトをインストールすれば多かれ少なかれ速度は遅くなる。誰しも一度や二度は、前の人がピポーンとエラー音が鳴って改札が閉じ、つんのめりそうになったことがあるだろう。ひとりひとり検査をすればこそ、遅滞は避けられないのである。当然、それは検査の厳しさに比例する。
殊に空港で待たされるのはそのせいである。刃物やライターは持っていないか、ペットボトルの中身は本当にただの飲み物かと調べ上げる。その厳しさのせいか、単にとろいせいか、私などは気をつけていても毎回なにかしらで引っかかり、後続から白い目を向けられてしまう。
つい先日、秋田行きの飛行機に乗ったときもそうだ。金属探知のゲートを抜けると、間違いを指摘されたというよりも、何かに正解したという方がしっくりくるような音が勢いよく鳴った。何かお持ちですかと尋ねられ、ジャラジャラと鍵束を持っていたことに気がついて取り除く。しかしまだ鳴る。胸ポケットに携帯電話が入っていたのだ。
そしてようやく通過できたのだが、ちょっと考えてみると、世の中には至るところにこのような可/不可、適格/不適格をジャッジする〈選別の門〉があることに気がつく。
学校に行けば仲間に入れるか、受験ではどのくらい勉強ができるか、就職では会社に入れる価値があるかどうか。そのような数え切れないほどの〈選別の門〉を、激しくすり切れるほど通過して今があるのである。あるいは爪の形、ホクロの数さえも選別の対象となってーー誰しも毎日のように他人の好悪という基準の選別を受けているーー各々の人生を右往左往させてとめどないのである。
それこそ無限にあるような〈選別の門〉を通過し続けなければならない人の一生を思うと、どこか大気圏に突入してバラバラになる人工衛星のようにも見えてくる。古代遺跡から発掘される彫刻の手や鼻の先が欠けているように、突起した部分から真っ先に折れて吹き飛ぶのだ。
それはさながら個性や主張を抑えられ、そして社会に適合してゆく老成のイメージである。角が取れ、丸みを帯びて、もっとも抵抗の少ない流線型となって働き盛りを駆け抜けてゆく。ようやくで老後へ突入してもなお、いくつもの〈選別の門〉が待っている。社会にとって有益かお荷物か、子や孫にとってはどうか、そもそも人間としての存在意義はあるか。ただでさえなめらかな流線型は、いよいよ細く、棒のようになって、線のようになる。そして最後にふっと消える。
どこにでもあり、何の気なしに一瞬で通過してしまう駅の改札に、何らかの意味を見出すのは容易ではない。しかし、それは確かに〈選別の門〉のひとつであり、象徴とも言えるのではないだろうか。いくらたわいない選別でも、門の前後で我々はどうしようもなく何かを違ってしまっているのである。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
-
読書記録
2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。