安居酒屋の安い人(ちょい呑みの功罪)

最終更新: 2017/08/22

しばしば身なりがその人の格を表すように、店もまたそのようにして格を表す。来店している人々を見れば、店のレベルがわかるのである。

その男は作業着にも似た私服で、リュックを背負っていた。それを下ろしもせずに、背負ったまま冷酒を呑んでいた。日に焼けた浅黒い顏を、果実が腐るように赤くにじませて、時折まばたきを越えて長く目をつむった。

私はビールをつぎながら、飲みながら、彼を遠巻きに眺めた。五分としないうちに、私の中で彼は孤独になり、金がなくなり、そうしてひたすらに不幸の人になった。

彼は冷酒をついで、ぐいとあおる。リュックにぶら下がった、薄汚れたパンダのキーホルダーが揺れる。彼は、いつ、どのような気持ちでそれを取り付けたのか。想像すると、私の中でいよいよ彼は地に堕ちた。

冷酒を飲み干して、彼はお会計を求めた。2940円だと告げられると、「うおう、そんなに飲んだか」と、犬が吠えるように言った。だが、しおらしく金を渡すと、「おつかれさん。また来るわ」と、店員を労うように肩をたたいた。若い男の店員はひきつるように苦笑って、見送った。

無理もなかった。ここは、大手牛丼チェーンが既存店の片隅で始めた、いわゆる『ちょい呑み』なのである。「また」なんて言われても、時間を切り売りして働く店員には迷惑でしかない。

仮にこれが、安居酒屋は安居酒屋でも、個人で営むそれであれば、先の彼もこんな無様なことにはならなかったろう。

いま、「ちょい呑み」は増えている。しかし、安さにも性格がある。性格があれば相性がある。だとすれば考えねばならない。友たり得るか。あるいは縁切るべきか。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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