シンガポール移住のお知らせ
2018/07/03
私、新宅睦仁は、このたびシンガポールに活動拠点を移すこととなりました。2005年に福岡にあります九州産業大学を卒業後、十年あまり東京で活動して参りましたが(一時は地元広島に戻っておりましたが)、これからはアジアの時代だろうと。中でも日本のGDPを超えてなお成長し続けるシンガポールだろうと。そして国家政策として東京以上にアートに注力しているその最前線に……。
とかなんとかそれらしく書き出してはみたものの、別にアート関係でどうかなったわけでは全然ない。三十路も半ばに差し掛かり、単にこの日々に飽き飽きすると同時にうんざりもして、だからここいらでひとつ我が人生に揺さぶりをかけてやろうと海外転職を試みてみたというだけのことである。
それから一月足らず。純正日本人の私は英語も何もできたものではないが、少しばかりのWebの知識と経験でもって、もったいなくもオファーをいただき、無事に就労ビザの取得もできた次第である。
そもそも移住先がシンガポールであることに別段の理由はない。強いて言えば、高校の時の修学旅行先だったというくらいのものである。ちなみに私は17年前の1999年、高3の時にシンガポールに行ったきり、海外にはまったく縁がない。そもそも興味がなかったし、行きたいとも思わなかった。むしろ行きたくなかった。そう、まさに看板に偽りなく、「むろん、どこにも行きたくない。」で生きてきたのである。
何がどうなってこうなったのか、我がことながらいまいち判然としない。しかし、とにもかくにも出発は2か月後に迫っている。12月からは早速シンガポールでの仕事が始まる。つい最近まで、まさか私が海外に住むことになろうとは、自分でもまったく予想していなかったし、その兆しすらなかった。そう、完全に発作的な思いつきなのである。
たぶん、私には思慮というものが欠けている。年齢、金銭、将来、リスク、そういったひとつひとつの要素を取り出して、並べて、比較検討し、総合的に判断する。そういうまっとうな大人であれば当然あってしかるべき能力が欠如しているのだ。そうでもなければ、17年ぶりにパスポートを取ったその足で海外移住などということにはならないはずではないか。
私にあるのは、ただひたすらに正直な感覚と、単純な気分なのだ。そしてそれに対する率直な反応があるだけなのだ。だから、計画など何もない。これからどうなるかもわからないし、知ったことではない。別に死ににいくわけでもなし、どうにでもなれと思うのである。それこそどうにもならなくなったら死ねばいいだけではないか。どうせ人は皆なにをどうがんばったって死ぬのである。
この一切を〈死〉と対比させて考えるという発想は、大学の時に自殺未遂をして以来あるもので、私の本質と言っても過言ではない。苦しい時、迷った時、すべて死ぬことにくらべればと考えて平気なのである。
いま思うのは、救い難い惰性で流れ流されていた私の人生にも、まだこんなにも新鮮な感覚があったんだという驚きである。おざなりな擬音ではなく、文字通り「ドキドキ」して「ワクワク」することが残されていたんだという希望である。――想像する。私は海外に住む。英語もわからず、右も左もわからない。人種も違えば文化も違う。そのただ中に放り出される自分。そうしてひとつひとつ思いを巡らせていると、自ずと心が打ち震えてくるのである。
それはかつての上京に酷似している。あの時あったのは、まさにこのような感覚であった。根拠のない、漠然とした期待。それは漠然としているだけに、際限がなく、とりとめなく、どこまでも楽観的であった。
今、その上京について総括すれば、私の選択は正しかったし、素晴らしかったと手放しで思える。なぜなら、私の世界を広げたからだ。私を大きく変えたからだ。そうして私を退屈させなかったからだ。人は動けば必然的に変わる。それは欧米的解釈の「A rolling stone gathers no moss.(転がる石には苔が生えぬ)」ということで、つまり今回の私の選択も、そのようになるだろうと信じている。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
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英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
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音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
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