GNH(国民総幸福量)の数式=幸せになる方法

  2016/06/16

GNHという言葉をご存じだろうか。「Gross National Happiness」の略で「国民総幸福量」という意味である。GDPが経済規模を表すように、GNHは幸福度を表すのである。かのブータンが世界に先駆けてこの指標を導入して注目された。

ブータンは「世界一幸せな国」である。というのは実は誤りで、世界一はデンマーク、そしてブータンは8位に過ぎない(2006年度)。まして近年トップの座を奪われたわけでもなく、今まで一度も1位になったことはない。

と、いかにも小癪なもの言いで書き出したが、なんのことはない、私とて昨日知ったばかりのことを並べただけである。それはともかく、興味深いのはGNHの求め方である。正直、私は以下の式を見てひとかたならぬ感銘を受けた。

富÷欲望=GNH

先進国がこの分子を増やすことを追い求めてきたことは言うまでもない。しかし、それに伴い分母の欲望もまた増大することまでは考え及ばなかった。現代、富んで世界を牛耳るようになった先進各国が抱える獏とした停滞感(個々人においては倦怠感)は、こと日本において甚だしいものがある。

まえに年収7万5000ドル(約630万円)を超えると幸福感の増大は頭打ちになるという説が話題になったが、それはさもありなんと思わせるものが我々の胸の内にあったからに他ならない。

一方、ブータンはその逆を目指している。すなわち、分母の欲望を減らすのである。いわば国を挙げての「足るを知る」の実践である。しかもブータンでは、そもそも他人と比べるという考え方が存在せず、羨んだり妬んだりということがまるでないという。

そうしてかの国と、この国と、どちらが真に幸福たりえるか。言うまでもない。物質は有限だが、精神は無限である。これは説法ではなく単なる自然の摂理で、人の命は果てがあるのに、欲望に際限無ければどうなるか。

考えてみれば現代に連なる近代人が築き上げた文明世界は、月まで届くその計算高さを資本とする。ところが「富÷欲望」という至極単純な式に限っては、どうしてひとつしか解法を見出せず応用もかなわず今に至る。その滑稽なこと、ほとんど青い鳥に通じるおかしみがあるが、幸いかの国に嘲笑する者はなかろうから、その気さえあれば素直に教えを乞うといい。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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