力強い経済をつくる(ある候補者の選挙公約に思う)
2017/08/22
「力強い経済を実現して参ります」――安居酒屋に据えられたテレビで、選挙カーの上の立候補者が訴えていた。
ごくなおざりに、できたらいいねと、ひとりカウンターでホッピーをかたむける。しかし力強い経済とは、換言すれば「欲望を刺激し続ける/され続ける社会」ということであろう。つまり、皆が皆、現世の煩悩に大いにとらわれていただき、欲しがり欲しがらさせ、買いたがり売りたがる世の中にするということである。
仏でもなければ、多かれ少なかれ人間には欲がある。だとすれば、力強い経済へ邁進することは、欲望の解放に尽力するということでもある。うまいものが食いたい! 女とヤりたい! いい暮らしがしたい! ――そのすべてを解き放つ。そう考えると、ちょっと手放しで賛同はできかねてしまう。むしろ、ちょっとこわい。
とはいえ、少子高齢化は言わずもがな、若年層の低賃金など、経済に関わる問題が山積しているのはわかる。だが、無限に欲望する人々が跋扈する社会というのもいかがなものか。
こう言うと、先の候補者は反論するかもしれない。我々が目指すのは、健全な経済の発展なのだと。しかし、お金のことに〈健全〉もなにもないような気がする。物々交換の時代ならいざ知らず、現在のお金の流れは複雑過ぎて、のんきに健全かどうかを考えたり調べたりしているうちに、あらゆる〈不健全〉がしっかり完遂されている気がする。
やや話は逸れるが、ソ連が崩壊してずいぶん経つ。だが、今でも折に触れてマルクスや共産主義が話題になる。とはいえそれは、「幸福な共産社会はあり得るか!?」などという真摯な議論ではなく、ほとんど気分転換や気晴らしにも近いものなのだと思う。今さら私有財産の否定はまず無理だし、みんなで平等に分け合おうと言ったって結局うまくいかない。そうわかってはいるのだけれど、資本主義社会できゅうきゅうとして、日夜お金と付き合っていると、どうにも疲れがたまってくる。
生活に疲れると、どこか遠くへ行きたくなるのと同じである。旅に出ておいしいものでも食べて、ゆっくりしたい。それはあくまでも日常へのカウンターとしてであり、いつもいつもそのように過ごすことはできないのだと、誰でも分かっている。それでも人は旅に出る。たとえ一時の気休めだとしても、やはり必要なことなのだ。
私はホッピーの中をおかわりして、瓶に残ったホッピーを継ぎ足す。〈中〉とは焼酎のことを指すが、ホッピーの本質を考えれば、ホッピーの〈外〉こそが〈中〉なのではないだろうか。焼酎のほうは焼酎と呼ばれるものであればなんでも構わないが、ホッピーは絶対にホッピーでなければならないのだ。
短いニュースの中で、かの候補者は三度までも〈力強い経済〉を言った。もちろん、戦略であろう。選挙は連呼に始まり連呼に終わるのだ。しかしちょっと戯れに、あなたの公約の〈中〉をくれと言ってみたい。我々の求める〈力強い経済〉と、候補者自身の〈得票〉のどちらが出てくるか。あるいは〈外〉をくれと言ってみたら、どうだろう。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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