ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

ぼくのおうちは東電の裏

  2016/04/08

引っ越して一月ほどが経った。新しい部屋にはとても満足している。ただ一点を除いては。

内見の際には気づかなかった。最初は、気のせいだと思っていた。しかし、確かに聞こえる。たまにではなく、一日中、朝も昼も夜も聞こえてくるのだ。

それが一日の終わりなど、静かにぼうっとしているときに聞こえてくると、実に不快である。キィーンという蚊の鳴くような、耳鳴りのような、あるいは老人には聞こえないという高周波音、いわゆるモスキート音が間断なく響いているのである。

その発生源はどこか。狭い道路をはさんで家の真正面にある東京電力の支社からである。

はじめ、水の流れる音が聞こえるなあと思っていた。眠る時に窓を開けていると、ちょろちょろと水が流れる音がするのだ。東電だけに汚染水のことが頭をよぎったが、おそらくはエアコンの排水かなにかであろう。それでもやはり、不穏ではあった。

ようやくでその不気味な音にも慣れてきたころに、今度は例の高周波音に気がついた。水の流れる音は不気味ではあったが、基本的には癒しの音の部類に入るだろうから、不快というわけではなかった。しかし高周波音は不気味でもあるし不快極まりないものがある。

いったい何がどうなってそのような音が発生しているのか。ベランダに立って東電のビルを上から下までねめつけるように観察した。どうやら、自分の部屋のある5階の真正面に、ちょうどエアコンの室外機にあたるような機器が満載されているフロアが存在するようなのである。その稼働音が、例の不快な高周波音の正体らしかった。

しかし、正体はわかっても、何をどうできるものでもない。それで、結構、真剣に悩んでいる。個人的に東電に恨みはないが、この一件でいまさらながら東電に対する怒りが込み上げてきている。先の原発事故の件も含めてもろもろ糾弾してやりたい。家の前なので、やろうと思えば病的な座り込みやデモも不可能ではない。生活者を舐めるなよ、東電。

ところで、朝、8時40分になるとチャイムが鳴る。効果音の素材集にでも入っていそうな、典型的なキーンコーンカーンコーンというあれである。それから3秒後に、ラジオ体操の曲が高らかに流れ始める。土日も祝日もなにもなく、来る日も来る日も、同じ時間にチャイムが鳴り、ラジオ体操が流れる。屋内の様子は確認できないが、社員はその音に合わせてラジオ体操をさせられているのだろう。別にラジオ体操に文句はないが、どう控えめに見ても、非常に前時代的な、封建的で硬直した企業体質が透けて見えるような気がするのは私だけだろうか。

それから、12時にもチャイムが鳴る。昼飯である。規則ただしい牧歌的な職場環境のようで何よりである。もちろん皮肉である。それから13時にチャイムが鳴る。昼休憩の終わりである。確か、2011年3月11日以来、御社は切羽つぱった危機的状況にあるという認識でいるのだが、そのあたりはどのようにお考えなのか是非お聞かせ願いたいものである。

そして最後に17時20分にチャイムが鳴る。退社である。今日も一日おつかれさまでした。外はまだ明るい。文字通りのアフター5をお楽しみください。

ちょうどそのころ、水の流れる音が聞こえ始める。モスキート音は今日も一日中響き続けていた。絶対に許さん、東電。

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